こんばんは。前回の「口噛み酒」の中で登場した腸脳軸について調べてまとめてみました。私は個人的に脳外科や神経内科、高次脳機能などに興味を持っていたため、思考が腸と関係していると言う研究に驚きました。しかし調べていく中で、確かに腸内でも生成される神経伝達物質(セロトニン)や腸神経系(ENS:enteric nervous system)が思考には関与すると納得してきています。少し難しいトピックですが面白ですので最後までお付き合い頂けますと嬉しいです。
腸脳軸の機能
腸神経系(ENS:enteric nervous system)は「第二の脳」とも呼ばれる腸管の神経系であり、消化管全体にわたる約1億個の神経細胞から構成されています。ENSの機能には以下のものがあります。
- 消化と代謝の調節
- 腸と脳は食事の摂取、消化、代謝を調整し、エネルギーのバランスを維持します。
- 感情と行動の影響
- 腸内の健康状態や微生物のバランスが、感情や行動に影響を与えることがあります。例えば、腸内フローラの不均衡は不安やうつ症状と関連しています。
- 免疫応答の調整
- 腸内の免疫細胞は、腸内環境の変化に応じて脳に信号を送ることで、全身の免疫応答を調整します。
腸脳軸の構成要素
- 神経系
- 迷走神経: 腸と脳を直接つなぐ主要な神経経路で、情報を双方向に伝達します。迷走神経は、腸から脳への感覚信号や、脳から腸への運動信号を伝えます。
- 腸神経系(ENS:enteric nervous system): 腸には独自の神経系があり、これを「第二の脳」とも呼びます。ENSは、腸の動きや分泌、血流を制御し、腸内の神経細胞を通じて脳と連携します。
- 免疫系
- 腸は免疫系の重要な部分であり、腸内の免疫細胞が外来物質や病原体に対する応答を調整します。免疫系の応答は、サイトカインなどの化学物質を介して脳に影響を与えることがあります。
- 内分泌系
- 腸は多くのホルモンや神経伝達物質を分泌し、これらが血流を通じて脳に影響を与えます。例えば、セロトニン(※)の大部分は腸で生成され、気分や感情に影響を与えます。
※セロトニンの役割については下に記載しています。
- 腸は多くのホルモンや神経伝達物質を分泌し、これらが血流を通じて脳に影響を与えます。例えば、セロトニン(※)の大部分は腸で生成され、気分や感情に影響を与えます。
- 腸内微生物(マイクロバイオーム)
- 腸内には膨大な数の微生物が存在し、これらは消化、代謝、免疫応答において重要な役割を果たします。腸内微生物は、短鎖脂肪酸(※)やその他の代謝産物を生成し、これが血流を介して脳に影響を与えることがあります。
※短鎖脂肪酸が脳に与える影響については下に記載しています。
- 腸内には膨大な数の微生物が存在し、これらは消化、代謝、免疫応答において重要な役割を果たします。腸内微生物は、短鎖脂肪酸(※)やその他の代謝産物を生成し、これが血流を介して脳に影響を与えることがあります。
腸脳軸の健康への影響
- 腸疾患と精神健康
- 腸炎や過敏性腸症候群(IBS)などの腸疾患は、しばしば不安やうつ症状と関連しています。
- ストレスと腸の関係
- ストレスは腸の運動や分泌、微生物バランスに影響を与え、逆に腸の状態がストレス反応に影響を与えることがあります。
- 腸内微生物の役割
- 研究によれば、特定のプロバイオティクスやプレバイオティクスが腸内環境を改善し、精神的な健康にも好影響をもたらすことがあります。
セロトニンの役割(※)
セロトニンは、神経伝達物質の一つであり、腸と脳の両方で重要な役割を果たします。
- 腸におけるセロトニン:
- 腸内のセロトニンの約90%は腸内クロム親和性細胞から分泌されます。
- セロトニンは腸の運動を促進し、消化管の蠕動運動を調整します。
- 消化管の分泌活動を調整し、消化過程をスムーズに行う役割を果たします。
- 脳におけるセロトニン:
- セロトニンは脳内でも重要な役割を果たし、気分、睡眠、食欲などの調整に関与しています。
- 腸内のセロトニンが迷走神経を介して脳に信号を送ることで、気分や精神状態に影響を与えることがあります。
- 腸脳軸における相互作用:
- セロトニンは腸と脳の双方向のコミュニケーションを媒介し、脳からの信号が腸の機能を調整し、逆に腸からの信号が脳の機能に影響を与えます。
- ストレスや感情的な状態が腸の機能に影響を与えることがあり、逆に腸内環境の変化が精神状態に影響を与えることもあります。
短鎖脂肪酸の脳への影響(※)
短鎖脂肪酸(Short-Chain Fatty Acids, SCFAs)は、腸内細菌が食物繊維を発酵する過程で生成される化合物で、主に酪酸(butyrate)、プロピオン酸(propionate)、酢酸(acetate)の3種類が含まれます。これらのSCFAsは、腸と脳の健康において重要な役割を果たしています。以下に、SCFAsが脳に与える影響について説明します。
- 抗炎症作用:
- SCFAsは、炎症性サイトカインの生成を抑制し、腸内および全身の炎症を軽減することが示されています。炎症が抑制されることで、脳にも良い影響が及び、神経炎症を軽減します。
- バリア機能の改善:
- 酪酸は、腸上皮細胞の健康を維持し、腸バリアの機能を強化します。これにより、腸漏れ症候群(leaky gut)のリスクが減少し、潜在的に有害な物質が血流に入るのを防ぎます。これが脳血液関門(BBB)の保護にもつながり、脳の健康を維持します。
- 神経保護作用:
- 酪酸は、脳内の神経細胞を保護し、神経炎症を減少させる効果があります。また、神経成長因子(NGF)の生成を促進し、神経細胞の成長と修復を支援します。
- エネルギー供給:
- SCFAsは、腸上皮細胞にとって重要なエネルギー源であり、これにより腸の健康が維持されます。腸が健康であることは、全身の代謝とエネルギー供給にも寄与し、間接的に脳機能をサポートします。
- 腸脳軸の調整:
- SCFAsは、腸と脳の間のコミュニケーションを調整する腸脳軸においても重要な役割を果たします。特に、迷走神経を介した信号伝達を通じて、脳に直接影響を与えることが示唆されています。
- 行動および精神状態への影響:
- 動物実験では、SCFAsが不安やうつ症状の軽減に役立つ可能性が示されています。また、SCFAsが認知機能や記憶力の向上にも寄与することが報告されています。
おわりに
少し難しい内容でしたが如何でしたでしょうか。
腸脳軸は腸と脳の相互作用を調整し、腸神経系(ENS)がその中心的役割を担い、セロトニンは腸で生成され、迷走神経を介して脳に信号を送ります。短鎖脂肪酸(SCFAs)は抗炎症作用を持ち、脳の健康をサポートします。これらの機能によって腸と脳の相互作用が成り立っている為、私たちが食べる食事にも気をつけて行きたいですね。別の記事にて食事と健康についても書いて行きたいと思っております。
最後までありがとうございました!
文献
腸脳軸における腸神経系(ENS)とセロトニンの役割について以下の文献を参考にしております。
- Gershon, M. D. (1999). “The Second Brain: A Groundbreaking New Understanding of Nervous Disorders of the Stomach and Intestine.” Harper Perennial.
- この本は、腸神経系(ENS)についての包括的な解説を提供しています。
- Mayer, E. A. (2011). “Gut feelings: the emerging biology of gut–brain communication.” Nature Reviews Neuroscience, 12(8), 453-466.
- このレビュー記事は、腸と脳の相互作用に関する最新の科学的知見をまとめています。
- Yano, J. M., Yu, K., Donaldson, G. P., Shastri, G. G., Ann, P., Ma, L., … & Hsiao, E. Y. (2015). “Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis.” Cell, 161(2), 264-276.
- この研究は、腸内細菌がセロトニンの生成と分泌に与える影響を示しています。
- Cryan, J. F., & Dinan, T. G. (2012). “Mind-altering microorganisms: the impact of the gut microbiota on brain and behaviour.” Nature Reviews Neuroscience, 13(10), 701-712.
- このレビューは、腸内細菌が脳の機能と行動に与える影響について詳述しています。
- Rao, M., Gershon, M. D. (2016). “The bowel and beyond: the enteric nervous system in neurological disorders.” Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 13(9), 517-528.
- この論文は、腸神経系がどのようにして腸疾患と関連しているかを説明しています。
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